映画「熊もつれ」は、熊をめぐる物語です。そして今、熊と人の距離は、社会全体の大きな課題になっています。この作品がその現実とどう向き合っているのかを、制作者として一度きちんと書いておきたいと思います。
本作の熊は「現実の熊」そのものではありません
本作は、人と自然、そして「赦し」をめぐる人間の心の物語です。物語に登場する熊は、現実の熊そのものではなく、人の中にある”恐れ”や”孤独”の象徴として描いています。だからこそ主人公が背負うのは本物の熊ではなく、「熊の着ぐるみ」なのです。
現実に熊による被害に遭われた方々、そのご家族、そして現場で対応にあたられている多くの方々に、心よりお見舞いと敬意を申し上げます。本作は、そうした現実の痛みを軽んじたり、事件性を題材として消費したりするものでは決してありません。
狩猟免許を取って学んだこと
私自身、本作の制作にあたって狩猟免許を取得しました。法令、熊の生態、地域の安全管理。学べば学ぶほど、熊と人との関わりは単純な善悪では語れない、複雑なものだと分かってきます。誰かを悪者にすれば済む問題ではないからこそ、フィクションにできることがあると考えています。
脚本を書き始めたのは、熊問題が騒がれる前でした
この脚本を書き始めたのは2023年。当時は、現在のように熊の問題が社会全体で大きく取り上げられる状況ではありませんでした。時流に乗って作られた映画ではありません。むしろ状況が変わった今だからこそ、この作品を世に出す責任を強く感じています。
この映画は、熊を通して「人間とは何か」「自然とどう向き合うのか」を見つめ直すためのフィクションです。現実を否定するのではなく、そこに生きる人の心のあり方を描く。観てくださった方にとって、自然や命について静かに考えるきっかけになれば、それに勝る喜びはありません。