2023年1月のことです。その日初めて会った俳優・大城規彦から、いきなりこう持ちかけられました。「熊の着ぐるみにまつわる男の話を映画にしたい。その監督をしてほしい」。

私は即答でOKを出しました。そして承諾したおよそ1分後、小さな後悔が芽生え始めました。冷静に考えてみてください。初対面の男から「熊の着ぐるみの映画を撮ってくれ」と言われて引き受けた人間の、1分後の気持ちを。

着ぐるみに込められていたもの

さすがにちゃんと企画の意図を聞いてみることにしました。彼の答えはこうでした。

「人は誰しも、役職や地位といった仮面をかぶらないと生きられない弱い生き物だ。そのメタファーが熊の着ぐるみなんだ」

この瞬間、話が変わりました。アメリカで俳優修業をしてきたむさ苦しい男と、同じくアメリカで映像制作を学んできたふざけた芸名の男。育った場所も歩んできた道も違う2人の問題意識が、初対面のテーブルの上でぴたりと一致したのです。そして同時に、心の奥にしまい込んでいた「いつか長編映画を作りたい」という夢が、音を立てて蘇ってきました。

CM監督が長編映画を撮るということ

普段、私はCMを作る仕事をしています。ROLEXやメルセデスベンツ、森永製菓など、ありがたいことに多くのクライアントと仕事をしてきました。CMの仕事には独自の面白さと厳しさがあり、誇りを持っています。それでも、映画作りには別のロマンがあります。15秒や30秒では語れない、人間の面倒くささや愛おしさを、2時間かけて描けるからです。

こうして始まった映画「熊もつれ」は、脚本執筆に3年、撮影・仕上げを経て、2026年に完成しました。このコラムでは、そんな制作の裏側を少しずつ書いていきます。初対面の男の無茶な頼みが、どうやって102分の映画になったのか。よろしければお付き合いください。

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